大阪市中央区|社会保険労務士事務所アンドディー【大阪 社労士】
人材を人財に変える社労士事務所・アンドディー
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こんにちは。アンドディー(社会保険労務士事務所)の川崎です。
2025年7月1日、キャリアアップ助成金に『短時間労働者労働時間延長支援コース』が新設されました。
このコースは、パート・アルバイト労働者が扶養の枠に捉われず働けるよう、新たに厚生年金保険及び健康保険に加入させるとともに、適正に賃金増加の取り組みを行った事業主に対して支給される助成金です。
今回は、その内容について見ていきたいと思います。
厚生年金保険及び健康保険(以下、社会保険)では、会社員の配偶者等で一定の収入がない方は、被扶養者(20歳以上60歳未満の配偶者は、併せて国民年金第3号被保険者)として社会保険料の負担が発生しません。
しかし、その方の収入が一定の基準を超えると、配偶者の扶養を外れ、社会保険への加入と保険料負担が生じます。
パート・アルバイト労働者の中には、「物価高だし、もっと稼ぎたい。
でも、なるべく扶養の範囲内に収まるように働きたいから、あまりシフトを入れない方がいいか…」という悩みを抱える方もいらっしゃるかと思います。
社会保険に加入すると、保険料負担分の手取り収入が減少するため、それを避けるために働き控えを行うという流れです。
その収入基準が、年収換算で106万円や130万円と、いわゆる「年収の壁」と呼ばれるものになります。
この問題を改善するため、国は、これまでの「106万円の壁」への対策に加え、「130万円の壁」への対策を目的とした新たな支援制度を設けました。
それが、今回キャリアアップ助成金に追加された「短時間労働者労働時間延長支援コース」です。
今回新たに新設される助成金の概要は、下記のとおりです。
1)対象
短時間・有期契約労働者を社会保険に加入させるような体制整備を行う事業主
2)支給内容
労働時間の延長と、賃金引上げを条件に1人あたり最大75万円(内訳:1年目50万円、2年目25万円)
3)申請方法
1.社会保険加入日の前日までに「キャリアアップ計画書」を都道府県労働局へ提出する。
(例:令和7年10月1日加入の場合、同年9月30日まで)
2.その後、取り組みを6か月間継続した上で、支給対象期間分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請手続きを行う。
4)1年目の要件
1年目は、所定労働時間を延ばす、または賃金を一定以上引き上げることを条件に、1人あたり最大50万円の助成金が支給されます。
たとえば、週の労働時間を5時間以上延長した場合、従業員数30人以下の小規模事業者であれば1人あたり50万円の支給対象になります。
5)2年目の要件
2年目には、さらに2時間以上労働時間を延ばすか、または基本給を5%以上引き上げる、もしくは賞与や退職金制度の適用などの追加的な処遇改善を行うことで支給されます。
延長する労働時間や賃金増額率は、1年目との比較で判断されます。
これまでのキャリアアップ助成金の各コースと比較すると、
新コースは常時雇用する労働者が30人以下の「小規模企業」に対して助成金額を手厚く設定している点、
また、大企業も含めたすべての事業規模に対応しており、申請できる人数に上限が設けられていない点も大きな特徴と言えるかと思います。
6)本コースの終期
「短時間労働者労働時間延長支援コース」については、当分の間の暫定措置とされており、その終期については現時点では決定していません。
(2025年8月 本稿執筆時点)
現行の「社会保険適用時処遇改善コース」は、いわゆる「106万円の壁」に対応する制度で、賃金の増加や労働時間の延長により、社会保険の被保険者となった短時間労働者を対象に助成する仕組みです。
なお、既に「社会保険適用時処遇改善コース」の計画届を提出している場合、新設の「短時間労働者労働時間延長支援コース」に関して、改めてキャリアアップ計画届や変更届の提出を行う必要はありません。
【参考資料】
キャリアアップ助成金 短時間労働者 労働時間 延長支援コース(パンフレットより抜粋)
厚生労働省は、2024年10月から「企業規模51人以上の事業所」について、以下の基準を満たす場合、社会保険の加入対象を広げる改正を行いました。
社会保険の加入要件がシンプルになることにより、働き方の自由度を高めると共に、将来の年金の増額が見込めるといった効果が期待されています。
1)週の所定労働時間が20時間以上であること
2)月額賃金が8.8万円以上であること
3)2か月を超える雇用の見込みがあること
4)学生ではないこと
今後は、次のスケジュールで段階的に適用範囲を拡大し、2035年10月には企業規模要件が完全に撤廃される予定です。
■スケジュール
1)2027年10月:企業規模36人以上の企業に拡大
↓
2)2029年10月:企業規模21人以上の企業に拡大
↓
3)2032年10月:企業規模11人以上の企業に拡大
↓
4)2035年10月:企業規模の要件完全撤廃
さらに、2029年10月以降に新たに事業を開始する「個人事業」についても、従業員数5人以上となった場合は社会保険が強制適用される見込みです。
(ただし、2029年10月時点ですでに存在している事業所は当分の間は対象外)
今後は、法人事業所は企業規模の大小に関わらず、個人事業主も従業員数5人以上の授業所であれば、アルバイト・パートタイム労働者も含めて社会保険に加入する義務が生じることになります。
また、上記の「月額賃金が8.8万円以上であること」という要件についても、全国の最低賃金の引上げ状況を見極めて、今後3年以内に廃止が予定されています。
以上を見ますと、今回新たに新設された助成金コースは、今後の社会保険適用拡大に向けて、企業がアルバイト・パートタイム労働者の労働時間を増やし、社会保険加入を促進するための準備期間としての意味合いもあるように思われます。
冒頭、物価上昇を理由にアルバイト・パートタイム労働者が働き控えを行う場合があることを例に挙げました。
総務省統計局が公表する2025年(令和7年)6月分の消費者物価指数(CPI)によると、2020年を基準(100)とした総合指数は、
2024年6月で108.2(前年比2.8%上昇)
2025年6月には111.7(前年同月比3.3%上昇)
と、2025年5月よりは微減しているものの全体的には上昇傾向にあります。
従って、今後も物価上昇の状況が引き続けば、パート・アルバイト労働者の就労意欲にも少なからず影響することが考えられます。
企業では、今後の社会保険制度変更を見据え、早いうちから短時間労働者の働き方や社会保険加入について検討し、準備を進めておく必要があるでしょう。
【参照資料】
◎上記(2)短時間労働者労働時間延長支援コースの内容
1)キャリアアップ助成金短時間労働者労働時間延長支援コース(パンフレット)
2)キャリアアップ助成金短時間労働者労働時間延長支援コース(リーフレット)
3)短時間労働者労働時間延長支援コース事業主の方向けQ&A
◎上記(5)物価上昇について
・2020年基準消費者物価指数全国2025年(令和7年)6月分(2025年7月18日公表分)
今回ご紹介した「キャリアアップ助成金短時間労働者労働時間延長支援コース」を有効に活用するためには、まずは自社のパート・アルバイト労働者の労働条件や就業実態を把握した上で、誰を対象に、どのような労働時間の延長・処遇改善を行うかを検討する必要があるかと思います。
助成金を活用しての制度整備を検討されている会社担当者の方は、ぜひお問い合わせください。
以上、アンドディー(社会保険労務士事務所)の川崎でした!
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